森林の価値は、産業に必要な木材資源の供給という経済的な側面ばかりではありません。森林は、ほかにも非常に重要な役割を担っています。それは私たちの暮らしそのものとの関わりです。
例えば水。都会で生活していると森林とのつながりを忘れがちですが、水道の蛇口をひねると出てくる水のふるさとは、豊かに育まれた森林なのです。
そのほかにも大気を浄化したり、土砂の流出を防いだり、レクリエーションの場として人の心に安らぎを与えたりなど、私たちは森林から数多くの恩恵を受けています。こうした森林の持つ働きを、「森林の公益的機能」といいます。 |
ユーラシア大陸と太平洋に挟まれている日本は、大陸と海洋からさまざまな影響を受けています。雨の多さもそのひとつ。大陸の冷たい空気と太平洋の暖かい空気が接すると、梅雨前線や秋雨前線ができてたくさんの雨を降らせます。
また、夏から秋には台風がやってきて、これまた大雨になります。1年間の降雨量は平均で1,750ミリ。これは世界平均の970ミリのおよそ倍になっており、雨に恵まれているのが日本の気候の特徴になっています。
ところが、日本列島の地形を見てみると、70%が山地。傾斜が急な山間地に降り注いだ雨は短期間に海まで流れ出てしまいます。このとき、水が流れ下るスピードをゆるやかにしているのが森林なのです。
日本の森林面積は、国土の約67%。森林率が60%を超えているのは、世界を見渡しても北欧のフィンランド、スウェーデン、熱帯のインドネシア、パプアニューギニア、南米ブラジル、そしてお隣の韓国などで、そんなに多くありません。日本の豊かな森林は、雨が海に出るまでの間にあって、水を蓄える役割を果たしています。
森林に降った雨は、木の葉や枝にさえぎられてそこで蒸発したり、根で吸収されて葉の気孔から再び大気に戻っていくものなどがあります。しかし残りはほとんど地中に浸透していきます。
森林の土は、まず木が地中深くまで根をはり、さらに微生物や小動物が多数棲息することで土中に大小さまざまな隙間があります。まるでスポンジのように、降った雨をどんどん地中にしみこませるわけです。そして一部は土の表層近くをゆっくりと流れて谷川に集まっていきます。これを中間流といいます。
さらに浸透した水の残りは地下深くにある滞水層(たいすいそう)に至り、地下水となって徐々に谷川にたどり着きます。
このように、森林があると流れ出す水の量が時間差を持って調節され、雨が谷川に出て海にたどり着くまでのスピードがゆっくりとなります。「緑のダム」といわれるゆえんがここにあります。
逆に、森林がよく育ってなく裸地が多い流域では、森林が持つ水量の調節機能が働かないために山に降った雨がいっきに流れ出て、下流で洪水の恐れが生まれてきます。
人口の割に大きな河川が少なく、夏になると渇水で悩まされる福岡では、森林の持つ「水源のかん養機能」はとりわけ重要です。しかも、福岡県の森林率は45%と全国平均をかなり下回っており、森林の大切さは、なおさらだと言えるでしょう。
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裸地の山に降った雨水は、流れる際に土の粒子をはね上げながらいっしょに運んでいきます。雨による地表侵食です。
森林があると、雨は木の葉や枝でエネルギーを弱められたあと地表におります。そこには落ち葉など腐植土が厚く積もり、雨が土に直接触れることはほとんどありません。
このように森林は、雨の落下してくる力を弱め、地表を守るクッションの働きをしています。
地表侵食は、土地の状態によって異なります。森林のある山を基準にすると、作物のある畑は10倍、作物のない畑では100倍、裸の斜面ではなんと1000倍もの土砂が流れ出るといわれています。森林は木の枝や葉が大地を立体的に覆い、土砂流出を防いでいるのです。
また、大きな木は、大小無数の根を地中に張り巡らせて土をしっかりつかんでいます。深く伸びた根は、硬い地層に食い込むことで、土の移動を抑えます。つまり、大雨が降って土が軟らかくなっても、根がはっていることで土が崩れにくくなっているのです。
火山国で地質がもろく、急な斜面が多い日本。約70%の面積を持つ森林が、しっかりと国土を守っています。
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このほかにも森林はさまざまな役割を果たしています。
森林は、もちろん人間たちだけのものではありません。野生生物にとっては、森林こそが昔からのすみかです。そうした場所を訪れることで、私たちは心身ともにリフレッシュします。森林空間は、自然体験・学習の場、またレクリエーション活動の場として、私たちに多くの恵みをもたらしてくれます。
最近は、身近な緑が減少していくなかで、豊かな自然環境を代表する原生的な森林を保全しようとする動きも活発になっています。日本はまだ比較的緑に恵まれていますが、地球上で森林が育つ土地は、陸地全体の3分の1にすぎません。しかも年々、熱帯雨林の減少、砂漠化の進行や酸性雨被害、野生生物の減少、温暖化など、地球環境問題が深刻になり、改めて森林の重要性が認識されるようになっています。
植物は二酸化炭素を吸って固定化して酸素を供給し、大気を浄化してくれます。こうしたことから、地球温暖化の部分で、最も経済的に大気中の二酸化炭素を固定する方法として森林の造成が注目されています。ある試算によれば、日本の森林が固定する二酸化炭素の量は、私たちが排出する二酸化炭素の約1割に相当するとされています。こうした側面でも、改めて森林の役割が期待されています。
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